医療のプロである星氏と、住宅のプロである相陽建設㈱の菊池氏。両氏が考える「病気になりにくい家づくり」について、最近の調査結果などを踏まえ語ってくれた。
菊池健康と聞くと、「医療」「食事」「運動」を思い浮かべる方が多く、「住宅」との関わりを意識している方は少ないと思います。生涯で最も長い時間を過ごす場所だからこそ、住環境にもっと関心を持ってほしいのですが。
星消費者が住環境と健康を結びつけて考えるには、まだまだ情報が不足していますね。私は「健康科学」という分野が専門で、人が元気で長生きするためにはどうするべきか、40年に渡って研究を重ねてきました。その結果、間違いなく言えるのは、医療だけがみなさんの健康や長寿を支えているのではないということです。WHO(世界保健機関)も1997 年の「ジャカルタ宣言」の中で、健康に影響を与える要因として13 項目を挙げ、「平和」に次いで2番目に重要なのが「住居」であるとしています。それほど健康と住環境は密接な関係にあるのです。
菊池星先生は、寒い家が病気をつくり、室内の寒暖差をなくすことが健康につながるとおっしゃっていますね。
星ええ。急激な温度変化に伴う血圧の変動で心筋梗塞や脳卒中などを引き起こすヒートショックが原因で、年間約1万7000 人もの方が自宅で亡くなっています(東京都健康長寿医療センター推計)。それにも関わらず、住宅の断熱性能に原因があることに気づいている人はごくわずか。安全で、生命を守るためのものであるはずの住宅が自身の健康を損ねる根源になってしまう。そんな悲劇を繰り返さないためにも、消費者への正しい情報提供が必要だと思います。
菊池確かにそうですね。冬暖かく夏涼しい適切な断熱性能を施した家に住むと、健康にどれだけの影響を与えるのか、先生に調査・分析をしていただきましたが、どんな結果が出ましたか?
星一般住宅から暖かい家(※)に転居した全国1万人を対象にアンケート調査を行ったところ、アレルギー性鼻炎、高血圧、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、糖尿病、心疾患といった疾病が劇的に改善されていることが明らかになりました(図1)。さらに、菊池さんたちがつくる「0宣言の家」は、転居前に比べてアレルギー発生率が4分の1と極めて少なく(図2)、高血圧者の割合も全国平均に比べ低く、12 〜14 歳若いというデータがでています(図3)。
※暖かい家…次世代省エネ基準(平成11年基準)を満たす住宅
菊池嬉しいですね。「断熱性能の高い住宅は病気になりにくい」と主張し続けてきたことが数値で証明されたわけですね。
星暑さ・寒さからの影響を最小限にとどめ、少ない冷暖房エネルギーで室内温度をコントロールできる断熱住宅は、光熱費の節約といった経済的なメリットばかり注目されがちですが、健康にも好影響を与える可能性が大きいのです。さらに、断熱住宅によって、高齢になったときに疾病や介護が必要になるリスクを減らせるのであれば、家族にとっても負担が減り、より豊かな生活を送ることができます。
星ところで、喘息アレルギーの患者に、3歳までの小さな子どもが多いのはなぜだと思いますか?
菊池免疫力が低いこともあるでしょうが、一番の原因は家の中にいる時間が長いからではないでしょうか。
星その通りです。身体に有害なホルムアルデヒドのような有機化合物質は空気よりも比重が重いため、下へと落ちていきます。赤ちゃんはいつも床に近い低い場所で呼吸しているので、汚れた空気の影響を受けやすいんですね。そんな事実をお母さんはご存知ないから、会社の知名度やデザイン、価格などを優先して住宅会社を選んでしまうんです。
菊池多くの住宅メーカーも表向きは「健康住宅」「自然素材の家」と謳っていますが、実際に自然素材が使われているのはごく一部です。新建材と呼ばれる揮発性有機化合物を含んだ工業化製品や、接着剤、農薬系殺虫剤なども多く使われています。隙間のない高気密住宅では、換気が不十分になり、室内に化学物質が充満してしまいます。これがシックハウス症候群につながると疑われているんです。さらに、グラスウールなど調湿性の低い断熱材の使用や未熟な断熱施工によって室内に寒暖差や結露が生まれ、ヒートショック現象や高血圧症の原因となったり、カビやダニによるいわゆるハウスダストでアレルギー疾患などを引き起こしているんです。
星本来なら身体を休め、家族と団らんを育む場所であるはずの住宅が病気を生み出す、これはあってはならないですよね。
菊池新建材を一切使わず、100%自然素材でつくる本物の健康住宅なら、家中にきれいな空気が循環し、温湿度のムラがなく、身体への負担が少ないので自然治癒力が高まります。住むことで健康につながる、それが「0宣言の家」なのです。
星現在の医療は、その多くが出てしまった症状を治す、あるいは緩和することを目的としています。私の考え方は、「人は健康になるように暮らせば病気にならない」という極めて当たり前のことです。このような根源的な予防対策を「ゼロ次予防」と言います。健康的な日常生活を送る「1次予防」、健診等での早期発見・早期治療を行う「2次予防」、リハビリや重症化防止を行う「3次予防」といった概念はすでに存在していますが、結局は医療に依存し、はしご受診で薬づけにされているのが現状です。「ゼロ次予防」とは、1次予防をさらに進め、医療分野にとどまらず、健康支援のために住宅、都市開発、教育など幅広い分野と連携して健やかな環境を整備する必要性を示したものです。
菊池なるほど。いくら血圧検診を受けて薬を飲んでも、ヒートショックを防ぐことはできませんからね。
星病気にならないための暖かい家づくり、安全に楽しく歩ける街づくりなど、社会レベルで健康的な環境が整備されれば、病気のリスクは今よりずっと少なくなるはずです。
星日本は世界有数の長寿国ですが、誰もが健康で豊かな人生を送っているとは限りません。諸外国に比べて要介護で生活している期間が長いと報告されています(WHO)。つまり、寝たきりのまま亡くなるネンネンコロリ(NNK)が多いのが特徴です。死の直前まで元気なピンピンコロリ(PPK)を目指すためには、病気になりにくい家づくりだけでなく、空気のきれいな地域でよく働き、温かい人間関係を築き、「自分は健康である」と自信を持つことが大切です。
菊池以前、先生から聞いて面白いと思ったのは、最新の医療施設が整った都会よりも、標高の高い無医村地域に住む人の方が長生きするという話です。
星これは都会よりも無医村地域の方が、ダイオキシンやトルエンの濃度が低いからです。また、長生きする人のタイプは、やや小太り(BMI 24 ~28 )で、総コレステロール値が高め(250~290㎎/ dl )であることも分かっています。これは意外に思うかもしれませんね。 大切なのは、医療を手厚くすることよりも、住宅を含めた屋内外の生活環境をまず改善し、夢や生きがいを持ち、社会とつながること。要するに「ゼロ次予防」をすることです。
菊池先生のご自宅も「0宣言の家」仕様にリフォームされたそうですね。
星そうなんです。2002 年にある住宅メーカーで新築したのですが、住み心地に不満を感じていました。合板フローリングを無垢の床に、ビニールクロスの壁を漆喰に、グラスウールの断熱材を4層のクアトロ断熱に変えました。その結果、私は夜中のトイレに起きることがなくなり、妻は血圧が下がりました。やっぱり本物の自然素材でつくる家は違いますね。結露もなく、室温は最低でも13 ℃あります。何より、家に早く帰りたくなったのが大きな変化ですね。菊池さんのお客様からもそういった声が届きませんか?
菊池別の住宅メーカーのモデルハウスに行って、目がかゆくなったり、臭くて長く居られないという話は割と聞きます。弊社の完成見学会や宿泊体験に参加したお客様は、帰りたくなくなるほど気持ちいいと言ってくださいます。施主さんに「0宣言の家」の住み心地に関するアンケート調査を行ったところ、ほぼ100%の方にご満足いただいているんです。だから、お引渡し後の関係もすごくいいんですよ。
星身体に有害な資材を徹底排除して、嘘のない家づくりを継続してこられた結果でしょうね。今思うとリフォーム前の住宅メーカーで建てた家は改修時期も早くて、メンテナンス費用の負担も大変でした。
菊池一般的な大手住宅メーカーが新築をリフォームするまでの期間は平均7年と言われます。私はこれは早すぎると思います。ですが、今の消費者のみなさんは10 年で外壁を塗り直すことが常識だと思っているんです。そんな概念も覆したいです。
星欧米では、地元の大工さんが地元の木材を使って、100 年もつ家を建てます。彼らにとって家は「資産」であり「文化」なんですね。一方、日本では約25 年でスクラップ& ビルドを繰り返す「産業」としてとらえられています。世界に目を向けると、日本の住宅や医療の「当たり前」に驚かされることが多いですね。
菊池おっしゃる通りです。
星家づくりはハードも大事ですが、ソフト(=健康)こそが大事です。「家族が豊かに育つ家」にしないと、満足する家はできないと思います。家で家族が一緒に食卓を囲み、笑い、遊ぶことで子どもは健やかに成長するのですから。
菊池そのためにも、私たち作り手が健康と住宅の密接なつながりについて、正しい情報を一人でも多くの方に発信していかないといけませんね。
星そうですね。現在、住医学研究会と協働で「0宣言の家」で暮らすご家族が一般住宅に比べて健康長寿であることを実証するエビデンス(科学的根拠)を蓄積しているところです。より多くの方に、私と同じような暖かい家に住んで、健康を取り戻していただきたいですね。
菊池ありがとうございます。先生がデータや数値で導き出していただいた研究結果をもとに、「本物の健康住宅」の追求をこれからも続けていきたいと思います。
病気になってから治すのではなく、病気にならないための環境づくり、すなわち「ゼロ次予防」が大事で、これは家づくりにも共通して言える。自然治癒力が高まる家こそが「本物の健康住宅」である。